4章 ノルマール城
3.
甘くて美味しいケーキに心を慰められた尊は、ずっと感じていた疑問を聞いてみようと口を開いた。
「あの、陛下。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
首を傾げながら尋ねると、レオンハルトは不機嫌を隠そうともしないで眉間に皺を寄せた。
陛下を前にして自分から発言なんて図々しかっただろうかと戸惑っていると、彼は低い声でぼそりと呟いた。
「………陛下はやだ。レオンって呼んで」
「はっ?」
予想を大いに外した台詞に、尊の口が半開きになる。
「レオンハルト皇子。何を阿呆なことをおっしゃっているのですか?」
眼鏡の奥のグレーの瞳を冷たく凍らせているのはルーファスだ。視線を向けられてもいないのに、尊の背筋が凍るほどの迫力である。
けれど、レオンハルトはその視線を送られることに慣れているらしい。顔色を変えることもなく、拗ねたように唇を尖らせた。
「だって、父上が亡くなられてから城中が陛下、陛下って……。私の名前を呼んでくれるのは今やルーファスとアガサだけじゃないか」
そう言ってツーンとそっぽを向く、一週間後に一国を治める皇帝になる予定の青年。
皇帝云々の前に、二十代後半の男がする仕草ではない。しかも、何が怖いって違和感を感じないところだ。
(っていうか、アガサって誰?)
「アガサは兄様の乳母だよ」
こっそりと耳打ちしてくれるテオドシウスは本当に空気が読める子だ。
「ミコトは異世界から来たんだから、私のことを陛下と呼ぶ必要はないだろう。だから、レオンって呼んでよ」
「え、えっと……」
陛下からのお許しが出ても、『はい、分かりました』と頷く訳にはいかないだろう。
けらけら笑うマチェイと、にこにこ微笑むテオドシウスでは戦力にならない。
助けを求めるようにルーファスを見つめると、彼は深々と溜息をついた。
「申し訳ありません、ミコト様。ご迷惑でなければ、レオンハルト皇子の言う通りにしていただいてもよろしいですか」
「はあ……」
こちらとしては陛下などと使ったことのない単語を使うよりかは、名前で呼ばせてもらう方が気が楽だ。
しかし、一般市民が次期皇帝を名前で呼ぶことをこんな簡単に許していいのだろうか。
そういえば、皇子様であるテオドシウスへの口の聞き方も注意が全くされていない。どれだけフレンドリーな皇族なのだろうか。
「それじゃ……レオンさんに聞きたいことがあるんですけど」
「うん!」
気を取り直して名を呼ぶと、レオンハルトは嬉しそうに返事をする。
何だかなぁと思いつつ、尊は気になっていたことを尋ねた。
「テオを攫った人たちのことって何か分かってるんですか?」
犯人は捕まっていない。そうなると、再犯だって考えられる。
文化が違い過ぎるこの世界で、彼らが何かの対策を打っているだろうかと気になった。
「………それがこんな時期だから心当たりが多すぎて」
「もうすぐレオンさんが皇帝になるからですか」
「そういうこと。陛下の方に警護を増やしてはいたんだけど、まさか坊ちゃんが狙われるとは………」
思ってもみないことだろう。
もし、ノルマールに敵対勢力がいるにしても狙うならば皇子ではなく次期皇帝のはずだ。
「解せないのは、テオドシウス皇子をディア・ガディアスの媒体にしようとしていたことです。媒体にしてしまえば人質としての利用出来ません。高位の聖神を召喚(するために高貴な血を持つ者を贄とすることもありますが、わざわざ警護の厳しいノルマールから皇子を攫うのはどうにも馬鹿げています」
つまり、敵の正体どころか目的も分からないということか。
それではどうやって再犯を防ぐつもりなのだろうか。
不安になって口を閉ざしていると、机の上で指を組んだレオンハルトが力強く告げた。
「大丈夫だよ、テオ。こんな事態は二度と起こさない。お前は私が必ず守るよ」
包み込むような笑顔でテオドシウスに微笑みかけるレオンハルトの姿が佐奈に重なった。
(佐奈ちゃん……どうしてるのかな?)
自分が突然、姿を消して佐奈はどう思っているだろうか。
きっと、とても心配しているだろう。
父と母が亡くなって二人きりの家族だったのに、彼女を一人にさせてしまっている。あの時、絶対に佐奈を一人にさせないと誓ったのに。
考えると胸が苦しくなって、目の奥が熱くなる。
口を引き結んで俯いていると、ふわりと頭に手が置かれた。
「ミコトも大丈夫だからね。宮廷魔導師の全総力を上げて、チキュウに帰れる方法を探すから。それまでは好きなだけここにいていいんだよ」
机の上に身を乗り出したレオンハルトがあやすように尊の頭を撫でる。
尊を見つめる優しさに満ちた瞳は佐奈によく似ていて、少しずつ哀しみが引いていく。
何でこんな世界にきてしまったのだろうかと自分の身の上を嘆いたけれど、それでもきっと自分はすごく幸運だ。
だって、こうして優しい人たちに出会うことが出来たから。
(クライブさんや布の人に会った時はどうしようかと思ったけど、捨てる神あれば拾う神ありだよね)
あのまま囚われの身になっていたら、間違いなく人間不信になっていただろう。けれど、尊はテオドシウスやレオンハルトたちに会うことが出来た。
だから、尊は泣くのではなく笑うべきだった。
「ありがとう、レオンさん!お礼しか言えなくてごめんなさい。もし、人手が足りないとか、困ってることがあれば言ってくださいね。あたし、何でもしますから」
尊に出来ることなど限られている。
けれど、ただお言葉に甘えてお世話になると言うのは気が引けた。というか、尊の性格上そんなことは出来ない。
尊の申し出にレオンハルトは意外なものを見るかのように目を丸くしてから、嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、色々と相談に乗ってもらおうかな。別の世界から来た人の考え方って参考になりそうだから」
「任せてください!」
拳を握って頷いた。
いい提案が出せるかは分からないが、頑張るのみだ。
こんな身元不明者を寛大にも受け入れてくれたのだから、少しでも恩を返したかった。
「レオンハルト皇子、お時間です」
柱時計に視線を送って告げたルーファスの言葉に、レオンハルトが眉を寄せる。
「もう少しいいだろう。せっかくミコトとお茶をしているんだから」
「そうおっしゃると思い、既に限度の時間まで譲歩しています」
「後もう五分だけ!」
手を合わせてお願いするレオンハルトに、根負けしたかのようにルーファスが口元に微笑を浮かべる。
「仕方ないですね」
「ありがとう、ルーファス!!」
「後五分遅れるようでしたら、首に縄をつけて連れて行きます」
「ごめんなさい。今すぐ行きます」
根負けした微笑ではなく、我慢の限界の冷笑だったらしい。
レオンハルトはきびきびと立ち上がると、慌てて部屋の出入り口へ向かう。
「慌ただしくてごめんね。テオ、危ない場所に近付いちゃだめだよ。ミコトは自分の家だと思って好きなだけ寛いでね」
「行きますよ、レオンハルト皇子」
「しばらくは会えなくなるけど絶対に時間作るから!またお茶しようねーっ!!」
ルーファスに首根っこを掴まれ引き摺られながらも、こちらに手を振るレオンハルト。
彼が皇帝らしくないことよりも、ルーファスのレオンハルトに対する雑な扱いに目を瞠るしかない。
レオンハルトを見送って少し呆気に取られていると、
「驚いたでしょ」
紅茶を飲んでいたマチェイが悪戯っ子のような目でこちらを見つめていた。
「えっと、まあ……色々と。想像とは違うもんだなぁって」
「陛下は少し特殊な育ち方をしてるからねぇ」
「特殊な育ち方?」
「あの方は殆ど平民育ちだから、身分とかよく分かってないんだよ」
「………え?」
なんで次期皇帝になる皇子が平民育ちなのだろうか。
国の方針であれば、とても画期的なものである。というか、なんでそんなことをするのか意味が分からないくらいに先鋭的だ。
「城の奴らが知ってることだから、どうせ後で耳に入るだろうし。変な情報が入っても困るから、先に話しておくよ。………いい、坊ちゃん?」
「うん。マーチの説明が一番分かりやすいし……悪意がないから」
悪意という言葉に首を傾げる。
レオンハルトに悪意を持つ人など想像がつかなかった。
けれど、皇帝になる人ともなれば人柄など関係なく恨まれたり憎まれたりするのかもしれない。
「ノルマール先代皇帝には五人の子供がいて、陛下は第二皇子。そうなると普通は第二皇位継承権がもらえる」
五人というのは初耳だ。となると、まだテオドシウスの兄弟三人に会っていないようだ。
後三人の兄弟はどんな人なのか聞いてみたい気もしたが、取りあえず今は口を閉じてマチェイの説明に耳を傾ける。
「けど、陛下の母親ってのが平民のご出身でご兄弟の母親たちの中でも一番身分が低かった。そのせいで、最終的には皇位継承権は坊ちゃんよりも低かった」
「テオよりも?」
ということは、テオドシウスとレオンハルトの母親は違うということになる。
十歳以上も年が下のテオドシウスよりも皇位継承権が低いということは、ノルマールは身分に厳しい国のようだ。
………出会った人たちを見ると、とてもそうは思えないのだが。
「だから、誰も陛下を重要視してなかった。なんてったって、皇帝から一番遠い皇子だからね。それをいいことに、あの方は城を抜け出しては母君のいる街に行ってた」
「レオンさんのお母さんってお城にはいなかったんですか?」
「そ、城に入ることを最後まで嫌がってたから。だから陛下は余計に城を抜け出してたんだろうね。もちろん城の連中はそのことを知ってたけど、まあ好きにさせてあげましょうってことで放置。結果、あの妙に親しみやすい性格が出来上がったわけ」
「なるほど……」
まさか、皇子様が市井育ちだったとは。
通りで威厳がまるでないわけだ。陛下と呼ばれるのを嫌うのにも納得した。
「それで、なんでレオンさんが皇帝になることになったんですか?」
「まず、第三皇位継承権を持つオルフェウラ皇女が巫女になったから継承権を剥奪。それから、第二皇位継承権を持つイーヴァイン皇子が色々あって継承権を放棄。で、坊ちゃんはこの通りまだ幼いから十五歳になるまでは継承を一時停止」
そうすると、第五皇位継承権を持っていたレオンハルトは第二皇位継承権にまで繰り上がったことになる。
けれど、まだ第一皇位継承権を持つ人がいるはずだ。その人はどうしたのだろうか。
「で、第一皇位継承権を持つアークライム皇子。この人は頭も切れるし、腕も立った。皇帝に相応しいって誰もが認めてたんだけどね。それが何故か………五年前に行方不明になった」
「いなくなっちゃったってことですか」
「うん。本当に突然だったみたいよ。従者が朝、アークライム皇子を呼びに寝室へ行くと影も形もなかったんだと。原因は分からず、今も行方不明のまま」
「はあ……」
想像を超える話にそう言うしかなかった。
まるで喜劇みたいなラッキーで、レオンハルトは皇帝の座に付くことが出来たのである。
「悪意って言うのはそこから。兄様がアーク兄様を排除したんじゃないかって、一部の人の間では思われてる」
「ええっ!?」
テオドシウスの言葉に目を丸くする。
確かに推理小説ではありきたりな設定だが、あのレオンハルトを見てしまうとそれはないだろうと思ってしまう。
そんな野心がある人にはとても見えない。
「なんでそんな話が!?っていうか、テオのお兄ちゃんとお姉ちゃんが継承権をなくしたのはたまたまなんでしょ?それなら、レオンさんにそんな考えがあるわけないと思う」
たまたま皇帝になるだけで陰謀説が出てしまうとは、こじつけもいいところだ。
「ありがとう、ミコト。そう言ってもらえると嬉しい」
ぶんぶんと首を横に振っていると、テオドシウスが微笑んだ。
テオドシウスの反応をみる限りだと、裏で色々と言われているのかもしれない。仮にそんな噂があったとしても、幼い皇子に聞かせるとはどういうことだ。
「まあ、ミコトちゃんの言う通り、そんなこと言ってるのは一部の奴だけどね。平民上がりが皇帝になるのが許せないんでしょ」
あんなにいい人なのに敵がいるんだと思うと悲しくなる。
端で聞いている尊ですらそうなのだから、レオンハルトはもっと辛いだろう。
王様というのも贅沢三昧の羨ましい生活に見えて、以外と大変なのかもしれない。
(智子、お姫様も楽じゃないみたいだよ)
金欠になる度に口癖のようにお姫様に生まれたかったと叫んでいた智子に心の中で呟いた。
※※※※※※※※※※※※
鼻唄でも歌いかねない笑顔で、機嫌よく皇座に座るレオンハルト。
皇帝の儀が近くなってから頬杖ばかりついていたのが嘘のような主の態度に、ルーファスは眼鏡を上げながら主に話し掛けた。
「嬉しそうですね、レオンハルト皇子」
「そりゃ、弟が無事に帰ってきたら嬉しいよ。俺はもう二度と会えないことも覚悟していたし」
物憂げに呟くレオンハルトは、すっかり素の口調に戻っている。素とは言っても、限られた人間の前にしか出さない素なのだが。
テオドシウスは攫われて、ディア・ガディアスの媒体にされかけたという。
ミコトというイレギュラーな存在がなければ、それは間違いなく現実のものとなっていた。
「まさか異世界から来た子が丁度よくテオの元に現れるなんてね。彼女には悪いけど、この世界に来てくれてよかったよ」
「信じてるのですか。異世界から来たなどと言う話を」
「ん〜。突飛だなぁとは思うけど、嘘ではないんじゃない?聖神界(があるんだから、それ以外の世界があってもおかしくないだろ」
すでに世界が二つある世界。それが二つではなく三つだったと今更言われたところで多少の驚きはあるが、それを否定する気にはなれない。
「しかし、彼女がテオドシウス皇子を攫った者たちの仲間ではないとは言い切れませんよ」
「どうして?自分を助けるために命を懸けてくれたってテオが言ってたぞ」
「テオドシウス皇子を助けるところから演技だったとすればどうします?全ては彼女がノルマールに取り入るための虚構だと考えれば辻褄も合います」
「………その発想はなかったな。お前、小説書いたらどうだ?きっと売れっ子になれるぞ」
「あなたが私の手を煩わせることがなくなれば、副業でやらせていただきます」
ぱちぱちと気のない拍手をするレオンハルトに、ルーファスは恭しく礼をする。
もちろん厭味だと分かっているので厭味で返すだけだ。
「だいたい、会ってすぐの人間のために命を懸ける者などいません」
「うわっ、出たよ人間否定発言。お前そんなんだから、三大老に嫌われてるんだよ」
「あなたのような二枚舌よりましです。何が陛下じゃなくてレオンと呼んでですか。猫被りも度が過ぎると、キモいですよ」
「ちょっと!皇帝代理にキモいって言ったよ、この人!!……でも、実際にミコトって素直で可愛いくない?『あたし、何でもします』だよ。貴族の馬鹿どもはともかく、市井にだってあんな純粋な子いないよ」
「お陰で演技と言う可能性が高まりましたが」
「お前、本気で歪んでるね。心に傷を追っているのなら、皇子に話してご覧」
にっこりと人の良さそうな笑顔。もちろん演技。
ちょっと抜けている、人の良さそうな青年を演じるならば、レオンハルトの右に出るものはいないだろう。
………いや、ちょっと抜けているのは演技ではなかったか。
「素性の知れない者を、テオドシウス皇子の傍に置いてもよろしいのですか?」
「皇帝代理のお言葉を無視とかありえないんだけど。つーか、俺がテオの近くに危ないものを置くわけないだろ。もう手は打った。ルゥにミコトの護衛させるように頼んでおいたから」
「れおんはるとおうじ。てきざいてきしょというおことばをしっていますか?」
「幼子に話し掛ける口調は止めてくんない?ルゥに監視が勤まるわけないのは俺だって分かってるわ。ルゥで油断を誘って、監視はマチェイ。………まぁ、あいつ自身はミコトを黒だと思ってるみたいだから手は抜かないだろ」
肘掛に肘をついて頬杖をつくレオンハルトの言葉に、ルーファスは僅かに眉を上げた。
「それは意外ですね。気に入っているように見えましたが」
「ミコトのことは気に入ってるらしいけど、なんか納得いかないんだって。なんかって何だよね」
レオンハルトに理由を言っていないと言うことは、マチェイ自身にもまだよく分っていない感覚的なものなのだろう。
けれど、彼の勘は鋭いので頼りになる。
伊達にレオンハルトの信頼を預けられているわけではないのだ。
「そういえば、ディア・ガディアスいなかったね。俺、すごい楽しみにしてたのに」
「テオドシウス皇子とマチェイの話ですと、ぬいぐるみの中に召喚(されたそうですね」
「しかも、たぬきのぬいぐるみ。マチェイが腹抱えて笑ってた。そんな素敵なものが見れたなら、これからどんどん蓄積されるであろう憂鬱を吹き飛ばせると思っていたのに」
「その憂鬱の半分ですが、まだ言いたいことがあるようですよ。午後から三大老との会議がありますので」
表情を変えずに淡々と告げるルーファス。対照的にレオンハルトの顔が歪む。
深い溜息をついて、玉座の背もたれに背を預けた。
「何なの。また同じ問答を繰り返すの。しつこくない。これ、絶対にしつこくない?」
「あなたの母君が平民なのだから仕方ないでしょう」
「そうね、俺の生まれが悪いのよね………。だったら、従兄弟でも何でも皇帝に立てろっつーの」
「あなたがいる限りそれは無理なのはわかっているでしょう。典範が全ての国家ですから」
「っは。百年も前のジジイ共が考えたカビの生えた掟にいつまで縛られる気なんだか」
足を投げ出して舌打ちをする。
皇帝としては最悪の行儀だが、ルーファスの意見も全く同感なので注意はしない。
儀式や掟に縛られ、国家としての機能が遅れている国。
今までは先代皇帝が立てた戦功でもっていたが、先代皇帝が崩御した今となっては色々と問題が出てくる。
それなのに、内部が何も気付いていない。十五年前の偉勲に縋りつき、国の危機に気付いていない。
「まあ、兄上の威光があればそんな危機もなかったかもしれないけど」
「いない方のことをおっしゃっても仕方ないでしょう。それとも、アークライム皇子に皇位を譲りますか?」
「譲れるものなら即効で譲るし。今までにない晴れやかな笑顔で譲るんだけど」
「そんなキモいものは見たくないのですが。………そろそろ、エールションの使者がつく頃です。顔を引き締めてください」
「え?引き締まってないの、今の顔?」
レオンハルトがぺたぺたと顔に触れているうちに、ルーファスはさっさと自分の定位置に戻る。
そんな部下を胡乱な目で見つめ、だらしなく伸ばした足を引き寄せて身なりを整えた。
皇帝の儀まであと七日。厄介事が多くなるとは思っていたが、異世界の少女は予定外だった。
いや、あれは厄介事というよりは愉快な事か。
異世界から来た人間の存在は楽しめるだろうし、破壊と終焉を司るディア・ガデイアスがこの国にいるということも外交に使えるかもしれない。
面倒臭いと思っていた皇帝も少しは楽しめそうだ。
もちろん、皇帝の座など惜しくないので譲れるものなら譲りたいが。
「………まっ。兄上が戻ってこられるのなら、ね」
呟いた声ははっきりとは聞こえなかったのか、ルーファスが怪訝そうに眉を寄せる。
レオンハルトはそれには答えず、笑顔を向けた。
ちょっと抜けている、人の良さそうな笑顔を。
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