嗚呼、眩暈がする。 眩 暈 。 昨日見てしまった景色が、目の前でチラつく。 何だか妙に頭が冴えない。 練習中だって言うのに、前を見てられない。 足元が、覚束ない。 「岳人…っ!?」 侑士のちょっと焦った声が聞こえて、 空と地面が反転して、 きゃーって声とかちょっと遠くに聞こえて、 皆が駆け寄ってくる足が見えて、 なんかちょっと面白かった。 「ガクト、だいじょーぶ。」 練習試合中にぶっ倒れた俺は、ベンチに座ってぼぅっとコートを眺めていた。 すると、ジローがとてとてと小走りでよって来る。 眠そうな顔だけど、心配してくれてるみたいだ。 「あー、も平気なんだけどさ。監督が休んどけって…」 「そーゆう意味だけど、そーゆう意味じゃない。だいじょーぶ?」 俺が平気だって。と笑うと、ジローは真面目な顔で首を横に振った。 …ああ、そっか。 コイツ知ってるんだ。 失恋同盟仲間だからなー。 「…どうだろな。案外平気かも。」 俺はもう一度笑ったけど、今度は何となく上手く笑えてない気がした。 何時もの俺は何処行っちゃったかな、帰ってこーい…。 俺の表情を見て、何とも言えない複雑な顔をしたジローは、突然ポケットを探り始めた。 「なきたいのになけないときは、甘いもの。」 と、小さな棒つきキャンディーを差し出してきた。 俺が吃驚していると、ジローもちょっと悲しそうに笑った。 「おれも、これ食べてげんきだしたから、ガクトにもあげる。かぼちゃ味。」 ん、とジローはもう一度飴を差し出してきた。 俺は苦笑いしてそれを受け取る。 何だかジローらしくて、笑えた。 「…さーんきゅ。」 包みを開いて、パンプキンキャンディを口に含む。 独特の甘さが体中に広がる。 …なんか落ち着くかも。 「じゃあ、おれれんしゅういくけど。ガクトがんばれ。」 じゃあね、とジローは手を振って走っていった。 なんかやっぱいい奴だなーと思って、キャンディーの棒を持つ。 励ましてくれて、応援してくれてる。 まぁ、実らないのは分ってるけど、努力はしてみよっかなって、思う。 ジローがコートの方へ走っていってから少しして、今度は侑士がやって来た。 何となく話しにくかったけど、俺は何とも無い振りをして、手を振った。 「…阿呆やろ、自分。」 「んな言い方しなくたっていいだろ…。」 開口一番に侑士はそう言った。 「体調管理は怠ったらあかんやろ。」 岳人はただでさえ体力無いんやから、と俺の横に立って侑士は言う。 分ってるよ、そんな事。 けどあんなの見ちゃったら寝れないだろ、普通。 「わかってるっつーの…。」 なんかちょっと惨めで。 俺は俯いて答えた。 「…ま、ゆっくり休みぃ。」 俺が凹んだのが分ったのか、侑士はぽんぽんと俺の頭を叩いた。 また子供扱い。 同い年だし、侑士が思ってるほど俺は子供じゃないのに。 だって、ほら。 あんなこと見ちゃった後だって言うのに、俺、全然フツウじゃん? ガキじゃないじゃん、なあ。 「あぁ、せや。コレ、着とき。」 寒いやろ、貸しといたるわ。 侑士はそう言って笑うと、俺にジャージを投げてきた。 ばさりと音を立てて、見事に俺の頭に直撃した。 それを見て更に笑った侑士は、後でな、と言ってコートに戻っていった。 「ったぁ…、投げんなよな!ったく。」 ぶつぶつと独りで悪態つきながら、侑士の体温で暖かくなったジャージを羽織る。 「…あれ。」 俺は侑士のジャージの袖をぎゅうと握って、瞳を閉じた。 「やっぱ…も、駄目なのかな…?」 ジャージに染み付いてたのは、侑士の気配と跡部の香り。 なんだ、やっぱり。 俺の入り込む隙なんて、ない。 袖を握る指に力を込めて。 嗚呼、眩暈がする。 終わり。 ひれんすき。 kio.