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「先輩っていつもあそこで何してるんだろうな」 「「誰だ?先輩って」」 「おまえらなあ……」 校庭での授業終了直後の作兵衛の台詞はそれだった。前から気になっていたことを三之助や左門に聞いてみたわけなのだが、初めて聞いたように首を傾げる二人に作は眉根を寄せた。お前らが木の側でよく話してる先輩だよ。つーか名前とか聞かないのか?何も知らずに話していたのか?会話続くのか?と疑問を抱く作兵衛だったが、作兵衛の問い掛けに思い出したように二人は声を上げた。 「あの木の上先輩か」 「いや、先輩だからな」 「先輩がどうしたのか?」 あたかも名字のように木の上先輩かと納得する二人に冷静に突っ込む作兵衛だが、気が付けば今までいなかった藤内や数馬たちがすぐ側に立っていた。知った風に尋ねて来た藤内に知ってるのか?と尋ねると、藤内はすぐに頷いた。 「たまに作法委員の仕事を手伝ってくれるんだよ」 「ホントは火薬委員なんだよね」 「数馬も知ってるのか?」 「藤内が前にそう言ってたから知ってるんだ。で、その先輩がどうかしたの?」 首を傾げる数馬に、左門や三之助に聞いてみたようによく木の上にいるだが一体そこで何してるのか気になって、と説明してみると数馬はそうなんだと少し驚いたように声を洩らし、小首を傾げた。続いて作兵衛も首を傾げ、気が付くと藤内も首を傾げていた。しかし、考えたところで彼が木の上で何をしているかなんて分かりそうになかった。 「サボり…?」 これしか答えが見つからない、と零れた数馬の声に作兵衛はやっぱりそうなのかと校庭の奥にちらっと視線を向けた。一方、藤内はそうなんだろうかと考えた。作法委員の集まりにわざわざ加わり手伝ってくれる人が授業をサボるのだろうか。関わりがあると言えど、委員会の用事の時しか会わない藤内に真偽のほどは分からなかった。 「孫兵は何か知ってるか?」 近くにいた孫兵に問い掛けると、孫兵は腕に巻き付いたジュンコからちらっと視線を外し、何のことだと首を傾げた。話の大筋を作兵衛が説明したが、孫兵は誰それと首を傾げるばかりであった。 「孫兵、竹谷先輩と同じ委員会だろ?」 「だから?」 「いや、先輩5年生だし、竹谷先輩とも仲良いみたいだから何か分かるかなと…」 「同じ委員会だからって先輩の友好関係まで把握しているわけないだろう。それにその先輩って誰なんだ?」 最もな意見に作兵衛は苦笑いを浮かべた。それほど5年と交流があるわけでもないので、頼るところは委員会しかなかった。しかし作兵衛が所属する用具委員に5年生はいないので、3年生で唯一5年生と接点のある孫兵に聞いてみたのだが結果はこれだ。 そうだよな。同じ学年の先輩がいるからといってすべてがあの人に繋がるわけはないのに、何を期待してるんだ。 ふと我に返る作兵衛を一瞥し、隣に立っていた藤内が口を開く。 「先輩は、たまに食堂で竹谷先輩たちといる小柄な人なんだけど」 「小柄…」 藤内がそう言っても依然として誰か分からない孫兵に三之助が付け足す。 「女みたいな顔してる人だよ」 「三之助!!」 「どうしたんだよ作、そんな大声出して」 「えっ、いや」 思わず大声が出てしまい、狼狽したのは他でもない大声を出した作兵衛本人だった。もし自分が女みたいな顔してると言われても嬉しくないだろ、と取り繕ってみても事実なのだから仕方がないと一掃されてしまう。結局のところ、言われるとそれを変に意識してしまうから聞きたくなかっただけなのだ。作兵衛は何も言えず黙り込んだ。 「あぁ、あの先輩か」 「ほら、通じたみたいだし良いじゃん」 「……」 「あの人、なんか妙だよな」 「妙って…?」 孫兵の言葉に反応したのは藤内だった。確かに同委員の綾部喜八郎と妙に気が合うのかあの喜八郎と難なく会話しているし、少し変わった人かもしれないけど優しい先輩だ。と言うのが藤内の彼に対する印象なのだが、先日仙蔵が見せた意味深な表情が気掛かりであったのだ。 「何となく惹かれるのも分かるけど、あんまり深く関わりたくないな……ってジュンコが言ってる」 「え、ジュンコ?」 孫兵らしいと言えば孫兵らしい台詞だったが、それじゃあよく分からないよと数馬は苦笑いを浮かべた。真顔で言うものだから本気なのか冗談なのか分からないのだ。 「まあ勘もあるけど。でもジュンコが警戒してるのは本当」 「そう、か」 「でもどうして藤内は肩落としてるんだ?」 「藤内、先輩と知り合いだからねえ」 藤内が肩を落としてしまうのは彼と交流があるからだろう。まさか藤内が落ち込むとは思ってもいなかった孫兵はどこか気まずそうに視線を彷徨わせた。そんな少し居心地悪い空気を打破したのは左門であった。先ほどまで珍しく静かにじっとしていた左門は拳を高らかに突き上げて言う。 「ウダウダ考えたって仕方がないぞ!気になるなら直接聞けばいいじゃないか!」 「それもそうだな」 「な、三之助もそう思うだろ」 聞く勇気がなかなか出ないからこうして皆に話を聞いているのに。左門に便乗する三之助に溜め息を吐きたくなった作兵衛だが、二人が言うことも一理あった。本人に聞かなきゃ分からないこともあるよな、妄想や憶測で人を測ることは出来ないと思い直した作兵衛が決心したように頷くと、二人も大きく頷いた。 「よし!じゃあ行くぞ!!」 「ってお前らどこ行く気だよ?!」 やはりお約束の展開。 「行くのは良いけど、もうすぐ授業始まるよ?」 「ほら、教室戻るぞ」 行くなら授業が終わってからだな。そう言って校舎に向かって歩き出した友人たちの背を作兵衛は追った。ちなみに、左門と三之助は他の人にしっかりと装束やら掴まれており、彼らが迷子対策に抜かりがないことが分かった。 |